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加藤 敦宣 教授?森出 茂樹 非常勤講師 「政策イノベーション特殊講義Ⅱ」

長期のフィードバックで「思考」を深め、「視点」を高めるインタラクティブな授業

加藤 敦宣?森出 茂樹 / 「政策イノベーション特殊講義Ⅱ」

教員基本情報

氏 名 :加藤 敦宣(かとう あつのり)

所 属 :社会イノベーション学部

職 名 :教授

専門分野:製品イノベーション、新製品開発、研究開発管理


教員基本情報

氏 名 :森出 茂樹(もりで しげき)

職 名 :非常勤講師(シンギュラーテクノロジーズ代表)

専門分野:AI?ディープラーニング、事業開拓、人材育成

授業概要

対象者 :社会イノベーション学部 3?4年生

授業形態:講義

実施学期:2021年度後期

授業教室:Zoomを利用したリアルタイム授業(オンデマンドにも対応)

履修者数:10 名

※ページ内のpoint!は授業のポイントです
※黄色にハイライトされた用語はクリックで用語説明が表示されます

加藤先生の授業は、2019年度「授業改善アンケート」の回答率ならびに一部の設問の評点を基準に決定される「ベストティーチャー賞」を受賞し、学生から高く評価されている。当該授業はオンラインでの講義形式で、コメントペーパーでの教員とのやり取りやゲストスピーカーへの質疑応答を通し、学生の自由な発想での授業参加を積極的に促している。

授業内容?目的と取材当日の授業について

 本授業は、社会イノベーション学部の学科共通科目として2020 年度新設された専門科目である。
 AI(人工知能)の技術を広範囲に学び、その利点や問題点を理解し、また新規事業の創造でAI がどのように活用されるのか、自分の言葉で説明できるようになることを目標としている。

取材当日(2021年11月21日)の授業は、以下の流れで進められた。

授業の流れ

①導入(加藤先生から本日の授業について):5分
②コメントペーパーへのフィードバック:20分
③本日のコメントペーパーテーマ提示:15分
④講義:40分
⑤まとめ(加藤先生がコーディネート):5分
⑥質疑応答?連絡事項:5分

加藤 敦宣?森出 茂樹 / 「政策イノベーション特殊講義Ⅱ」

 授業はZoomによるリアルタイム配信で行われている。本授業では学生が週ごとに提示されたテーマでコメントペーパーを作成?提出し、教員からのフィードバックが次の週の授業冒頭で行われる。
 学生たちは、前の週のコメントペーパーのテーマ「AI に対するイメージは変わりましたか?」に対し、前回の授業で学んだAI のディープラーニングに関する基礎知識や、プログラミングの特徴、画像認識の研究動向など、これまでに学修した内容を総動員し、自分の考えをまとめ上げて、コメントペーパーを提出した。ページ数は自由、ネットや文献からの引用も出典明示の上で可となっている。
 学生はテーマに沿いながらも、自由な発想で考察やアイデアを記述していると感じた。教員からはそのアイデアが現実的かどうか、既存の商品として活用されているか等、専門的見地から詳細かつ平易な言葉で述べられた説明も加えつつ、フィードバックが一人ひとりに向けて丁寧に行われ、その上で質問の時間も設けられた。また、教員同士として、異なる専門分野を持つ加藤先生から森出先生へもいくつか質問があり、学生はその対話を契機として、更に内容理解を深めている様子であった。
 コメントペーパーは、毎回の授業で課されるが、「回を重ねるごとに、内容理解と共にみなさんの目線が上がっていることが感じられ、自分の言葉で書けるようになっていると感じる」、と森出先生が学生たちに感想を述べていた。
 次に、本日のコメントペーパーのテーマ「役に立つではなく『面白い!』と思える画像認識の対象はありませんか?」を提示した上で、講義の本題である「< AI ビジネスの実践>『食品画像実データ画像認識』」に入っていく。
 実際に写真を学習?分類させるデモンストレーションでは、AI 開発ツールである「Sony Neural Network Console for Windows」を使用した。
 このツールは無料で使用することができる。プログラムを書かなくても、必要な動作の部品をエディター部分にドラッグし、ブロックのように組み合わせるだけで良い。とても簡単なため「授業後、実際に使ってみた」という学生の感想も見られた。

加藤 敦宣?森出 茂樹 / 「政策イノベーション特殊講義Ⅱ」

 ツールの紹介、事前準備の手順、セットアップ、階層の設計方法と実際の操作画面を確認しながら、認識させた画像をAI が正しく分類できるか、どのくらいの割合で成功するかの実験を、まずは分かり易い「手書き文字4 と9 の画像」だけを使い、2クラス分類のデモを行った。画像を見せた回数でエラーの割合がどんどん減っている様子が、学習曲線の描くスロープの変化として表示され、実際の操作画面を共有しながらわかりやすく説明された。
 次に「面白い認識対象」として、「牛丼」の画像写真がデータとしてセットされた。チェーン店3 社の牛丼?その他(ラーメン)、総計1,877 枚のオリジナル画像写真(食べている途中や空の器、いろいろな角度、近くから?遠くから等を人間が撮影したもの)からデータセットを作成し、デモが行われた。
 画像写真のディープラーニングの成果と検証結果が、教員により画面共有されると、AIに画像認識させた場合、対象画像の「何を見て識別するか」「何に注目するか」はAIが勝手に学習していくもので、人間にはその視点は解析後にしかわからない、という特性について解析ポイントの画面と共に説明された。
 AIは人が気付かない部分に注目することもあるが、このツールによってAI の気づきに人間も気づくことができ、調整と検証のキャッチボールを繰り返す中でAI の学習は深まっていく。
学生は実際のツールの動きを丁寧な説明と共に確認することで、AIが画像認識をする際に、どのような処理が行われているかを理解した。
 本日の授業を踏まえて、学生へ「『面白い』と思える認識対象のお題を考えてみよう」と課題の説明を再度行った。全員のコメントペーパーを確認すると、回を重ねるごとにAIを通じて個々の「考える力」が発展していると感じる、と締めくくった。

Pick up

 さまざまな新しい取り組みをしている当該授業ですが、12回目の授業では、実際にAI分野の若手起業家、株式会社Anamorphosis Networks代表取締役の炭谷翔悟氏を講師に迎えお話を聞きました。

 会社創業の背景?理念、強みとなる事業内容や経営者、最高責任者としての考えを、お話しいただきました。

 8回目から11回目の授業では、エフェクチュエーション等起業家の行動原理を学んだ学生たちにとって、起業しキャリアを積んでいる方からお話を聞ける貴重な機会でした。

 お忙しい日々の中、移動車中からの講義を行ってくださった炭谷氏ですが、「若い時はどんどんチャレンジを!」と、学生たちにわかりやすく率直な言葉でお話いただいたことで、質問コーナーでは「起業にあたって不安はなかったのか」「顧客とのつながりはどのようにして獲得しているのか」「新しい分野でのニーズ調査の方法は?」「具体的な取引先への寄り添い方は?失敗したことは?」と、活発な質疑応答が繰り広げられ、学生の積極的な授業参加が見られました。

教員インタビュー(Q&A)

Q. 文系の大学でAI をテーマにした授業を行う上での学生への想いを教えてください。

A. 長い人間の歴史の中で、1950 年代から「考える機械」がやっと作れそうになりながらも、何度も壁にぶち当たってきました。  AI の得意?不得意を理解し、AI について正しい理解を深めていき、そこから人間や人間が考える事は何なのかを考え、人間自身の見直しという視点で、新たな気付きをつかんでほしいです。理系?文系に関わらず、専門的な知識と人間社会の架け橋になる人材が出てきてほしいと考えています。

Q. 学生の考えにコメントをする際、工夫している点はありますか?

A. この授業は2020 年度に新設されたのですが、コメントペーパーへのリプライを昨年度の途中から取り入れたところ、回を重ねるごとに、学生の書く内容が明らかにレベルアップしていくのを感じました。「何でも答える」「否定しない」など「心理的安全性」を意識して話題を広げています。また、最初は学籍番号順にフィードバックを行っていましたが、後の人からのコメントはどうしても少なくなってしまうため、途中からランダムに、または内容によって順番を決めるようにしました。

Q. コメントペーパーへのコメントは次回の授業で行われ、少し時間が空きますが、それによって学生が日常生活で体験することなどについても、いろいろと考える時間が与えられるように思いました。また、コメントは、これまで行われた授業の内容や、これから学ぶことなどもうまく織り交ぜながら、話をされていたのがとても印象的でした。このようなフィードバックによる学生への学習効果を教えてください。

A. AI というテーマは、現在の常識を外側から考える必要がある内容です。「批判的思考力」が伝わるよう意識していますが、それにプラスしてさまざまな角度から物事を見る視点も意識し、自由で新しいアイデアを生み出す思考法を体験的に伝えています。コメントペーパーは自由な考え?発想を繰り広げる安全な場であるということを伝えるため、課題の文面では必ず「あなたはどう思う?」と問いかけています。学生は個々の自由な発想でコメントペーパーを記述し、授業ではその内容に対して、AIをめぐる歴史や現況、そして未来展望を踏まえながら、フィードバックを行います。それを積み重ねる事で授業全体での「長期にわたるフィードバック」が生まれ、その効果は学生が自由に書いているコメントペーパーの視点が上がってきている事や、授業で教員が使用した言葉ではなく、自分の言葉で書いていくようになっている事から感じられます。

Q. 学生への期待を教えてください。

A. 授業では、いろいろな切り口を見つけられる視点を身に付けられるよう、刺激を与える授業展開をしています。そこから、単に知識を覚えるのではなく、切り口を自分で見つけにいくような主体的な探究をし続ける人になってほしいと思います。

学生インタビュー(Q&A)

Q. この授業を履修したきっかけは何ですか?

A. 自分は今データサイエンス科目の授業を多く履修しているのですが、そこで得た知識の視野を広げられるのではないかと思い履修しました。

A. 「人間が想像できる事は、人間が必ず実現できる」という考えを本で知りました。また、1900年代に考えられた「100年後の未来」が、現在AI 分野に限定するとほぼ実現している事を知り、では自分が想像していることが、どこまでAI で実現可能なのかを知りたいと思い履修しました。

A. SFが好きなのでそこから興味を持ったのですが、AIが活躍していく時代に人間の自分が、どう生き抜いていくかのヒントが見出せないかと思い履修しました。

Q. 印象に残っている授業はありますか?

A. 一つ一つの授業が印象深く、AI の活用事例をいつも面白いと感じています。この授業で学ぶまでは、AI に人間の存在意義が乗っ取られるのでは?と怖い存在としても感じていましたが、AIにも得手不得手がある事を知り、それを見極めて人間が上手くAIを使い、共存する社会を作りたいと思いました。

A. エフェクチュエーションの授業が印象的です。成功している起業家の考え?頭の中を分析し言語化した理論を学べたのは初めてでした。

A. ゼミで経営学を学んでいますが、それと繋がる起業家のイノベーティブな商品を考えるときの発想を学ぶことができ、とても面白かったです。

Q. この授業のよいところはどんなところですか?

A. コメントペーパーについて次の授業で必ず先生から返事が来るところです。課題の出し方が特徴的で、知識の確認ではなく、学んだ知識を使って何ができるかを自分で考えて書くのですが、学生一人一人の意見に先生が反応してくれるので、他の人の考えからも理解を深められます。

A. AI について技術的な理解だけでなく実用性の話から応用に重点を置いているため毎回新しい発見があります。AIの活用が広まっていく時代に、社会に何かをもたらせる人間になりたいです。

Q. 先生へのメッセージをお願いします!

A. いつも面白い授業をありがとうございます! AIについて学ぶことで、これからの社会?人間のあり方、哲学を学び、自分の将来の目標ができました。

A. 自分が他の授業で学んでいたことを、より広く深い視野で理解することができましたし、社会に出てすぐ使える考え方を学ぶことができました。

A. 実践的な授業内容なので、将来に直結するものが学べています。このような授業に参加できて嬉しいです!

※インタビューは3名の学生にご協力いただきました。